内省130702

 時間を持て余している。やることがないのだ。いや、正確には一つだけあるにはある*1のだが、実行には条件があって、それは未だに満たされない。

 ここ数日、部屋の片づけをしている。お世辞にも綺麗とは言い難い部屋であったが、何も不自由はないし、むしろ雑多な感じが心地よいくらいで、ボクの城と言っても差し支えないだろう。元より‘外政’には力を入れてこなかったため、我が城に賓客を招き入れたことなど数度しかないが、足を踏み入れる*2者は汚さに閉口している様子を見せる。本分の学業が上々だったのだから、私生活には口を挟まれる理由などない*3

 話を元に戻す。その掃除の中で、数年前に大学が作った「学生が選んだ良い授業」なるパンフレットが出てきた。ぱらぱらとめくってみると、忌々しいあの老人のご尊顔が。当時は別のキャンパスに居たのでボクとの接点は無かったのだが、数年後にこうなるとは、ね。それにしてもあの写真、何年使いまわしてんだよ。

 良い授業をする=良い人間であるか? 少なくとも、ボクにとっては悪しき人間として認識されているのだが、周囲からのその老人の評判は悪くは無いようだ。そのことについては、嫌っているとはいえ認めざるを得ない。ただ、配属された当初は彼の力*4になりたかったと、そう本心から思ったものだ。欺かれるその日までは。

 結局、人と関わりを持つのが怖いのだ。必ずしも他人と接することがボクにプラスになるとは限らない。もちろん、マイナスの側面があるからプラスの側面もあるのだ。それは分かっている。でも、負のスパイラルから今もなお抜け出せない現状に苦しんでいる以上、そのような要素を孕んでいるのならば、どんなに大きな恩恵に預かれる可能性があるとしても関わるべきではないのだ。触らぬ神に祟りなし、である。

 この世界は嘘と涙とため息、ほんのちょっとの優しさで出来ているのだ。

 理系の学生ならば、心底研究に没頭するものだと思っていたが、どうやらベクトルが違ったようだ。「生物は突き詰めると化学になる。同様に化学は物理に、物理は数学に、そして数学は哲学になる」なんて言葉を聞いたことがあるが、何段階かすっ飛ばして*5哲学の世界に迷い込んでしまったようだ。

 掃除をしながら思ったこと。物理的なものは当然として、パソコンのデータでさえ消去することは出来る*6のに、人間の記憶だけはそれが叶わない。もちろん、出来事を忘れることはあるのだが、自発的に忘れることは不可能だろう。けれども、絶えず外界からの刺激を受けて、記憶として心に刻まれていくのだから、人間とは実にやっかいな存在だ。断片的な時間の集合体、それが人間。

 物理も少しかじった程度なのだが、全ての物理法則はF=maに帰結するらしい。物体に作用する力は質量と加速度の積という単なる関係ではなくて、時間と力という異なる概念を因果関係で結びつけている点で意義がある、とかなんとか。社会と関わる大きさをm、時間的な積み重ねによって形成されるその有り方(関わりを望む場合を正、望まない場合を負とする)をaとすれば、自殺衝動はFとして定量化できるのではないかと、可笑しな理論をでっち上げる。ただし自殺衝動にも2通りあって、Fが極度に負の場合には反社会的な「自爆型」、Fが極めて無に近い場合には虚無的な「消失型」。さて、ボクの場合はF自体は負であることは間違いないのだが、自爆するには力が足りず、消失するには力が大きすぎるようだ。いずれにしろ、F=maが成り立つのならば何だってよい。


 掃除の結果、ごみ袋にして13袋分を処分した。少しはすっきりしたが、まだまだ物に溢れている。それにしても、運ぶのにも一苦労だ。

 いっそ、このボクも社会のゴミとして回収してやくれないものか。ごみ集積所にぼさっと座り込んだとして。
清掃員:「何やっているんですか?」
ボク:「社会のゴミなんです、ボク」
清掃員:「(面倒くさそうに)あー、今日は燃えないゴミの日ですが」
ボク:「ボク、格好良くも、可愛くもないですし、萌えないですよ?」
清掃員:「えっ?」
ボク:「えっ?」
清掃員:「えっと…… 資源ゴミは水曜日ですから……」
ボク:「あぁ、そうですか。ちなみに、回収されたらどうなるんですか?」
清掃員:「(社会のゴミとはいえ)資源ですから、パーツをばらして再利用します」
ボク:「はぁ、そうですか。じゃあ、また明日来ます」

水曜日―
 正しい曜日に集積所で佇んでいたせいか、何も言わずにトラックに投げ込まれ、清掃局へ運ばれた。社会のゴミは大雑把に調べられ、再利用が可能なものと不可能なものに分けられる。再利用可能な社会のゴミがベルトコンベアーで次のセクションへ。複数のレーンに振り分けられ、今度は係員が一体ずつじっくりとチェックされていく。ボクを調べるのは、髪はぼさぼさ、だぼだぼの白衣を纏ったセルフレームのメガネが印象的な小柄な少女。
少女:「パーツは異常ないようだね。じゃあ、今度は心を調べるねっ」
ボク:「(レントゲンのようなものを撮られる)……」
少女:「ありゃ、ちょっと濁ってるなぁ。さっきのとニコイチにすれば大丈夫かなぁ、うん、きっと大丈夫!」
ボク:「あの、一つ聞いてもいいですか?」
少女:「ほいほい、何でも聞いて」
ボク:「心も再利用するんですか?」
少女:「そうだよー。心を取り出して、高炉でどろどろに溶かして、型に流し込めば完成だよ。キミのは不純物が多いから微妙だけどね」
ボク:「そういうもんなんですか……」
少女:「知らなかった? 心、すなわち魂だけど、そんなうようよとあるもんじゃないからね。これ以上人口が増えたら、不足しちゃうかも。そうなったら、死神さんに回収してもらわないとね!」
少女がにぱぁと笑った。

 よく分からない妄想で終わる。






 


 

*1:過去の日記にさんざっぱらその願望を書き連ねているから、あえて言うまい

*2:あまりに物が多いので、慣れていないよそ者は城に入るのだけで大変なのだ

*3:1浪1留の輩に城の汚さを指摘したときは、気に食わなかったが

*4:というのは大義名分で、要は成果を上げて箔をつけたかったのだが。教授と学生の関係なんて一部を除けば、所詮は労力を提供する代わりに肩書を与えてもらう程度のものだろう。

*5:物理も数学もさっぱりなのだが

*6:完全には削除されずに、復元する方法もあるみたい。