決戦は金曜日

 僕は悟った。明日の行動次第で、この秋学期の行く末が決まるだろうと。

■理性と欲望が脳内でせめぎ合い
理性:将来の事を考えたら、やっぱり復帰するべきだよ。
欲望:明確にやりたくないと感じてることをわざわざやるなんて、お前マゾなの?
理性:じゃあ逆に聞くけど、キミは何を望んでいるの?
欲望:そんなもん決まってんじゃん。まず研究室に「研究、辞めますから」って宣言すんだろ。んでもって、気になってる哲学やら日本史の授業に出る。あ、ロシア語も続けようかな。こうすりゃ、秋学期は充実した毎日を過ごせるぜ!
理性:キミはたった半年の幸せのために将来をふいにするつもりなの?
欲望:ごちゃごちゃうるせぇな。やりたいことが見つからないからこんな状況に陥ってるんだろ? だったら、やりたくないものを排除していけばいいじゃんか。
理性:一瞬の気の迷いで一生後悔するかもしれない可能性を孕んでいる以上、ボクの立場ではその選択は出来ないよ。
欲望:お前さ、もう1回復帰して、それから考えようって魂胆なんだろ? どうせまた拒絶反応を起こすんだから辞めておけよ。
理性:そんなのやってみないと分からないじゃないか!
欲望:宿主の事は、俺らが一番よく分かってんだろ? あいつは中途半端を嫌う。だからやるならやる、やらないならやらないで白黒つけるのがあいつのためさ。やりたくもないことを嫌々やって、大した成果も出せずに軽蔑でもされてみろ。あいつ今度こそ空を飛ぶぞ? いや、研究室で首を括るとも言ってたぜ。
理性:そ、それはボクがさせないもん。
欲望:今日だって、一瞬殺意を抱いたらしいな?
理性:だから、ボクはそれを必死に抑え込んだんだよっ!
欲望:立場は違えど、目的はお前と同じさ。どうせ社会から不適合の烙印を押されるなら、せめて半年くらいあいつの好き勝手にさせてやろうぜ?
理性:あと1年半、凌ぎ切りさえすれば……
欲望:2回も挫折してるのにか? 確かにそれが今目の前にある唯一の道とはいえ、辛い道のりになると思うぜ。新たに道を切り開くのも生易しいことじゃないけどな。
理性:いずれにせよ、何らかの形で困難を克服する必要があるんだ。問題はどの道を歩むかということであって……
欲望:それについては同じ意見だ。
理性:はぁ、少し疲れてきたよボク。
欲望:じゃあ、ここいらで薬で一服するか。
理性:うん、一時休戦だね。

■僕の抱えている問題に対するいくつかの解法
Ⅰ:研究をやりつつ、気になる授業もいくつか取る(理想的な選択)
  →「研究やるくらいなら死んだ方がまし」な状態でどうしろと
  →1年半の贖罪によって恨みは解消(あるいは軽減)される
Ⅱ:すっぱり研究を辞めて、秋学期は気になる授業だけ取って中退
  →春からどうするの? 
  →一生恨みと付き合うことになる
Ⅲ:自らの手で無に還る
  →可能性の放棄、ただし安寧は確実に手に入れられる
  →周りがいろいろ面倒事に巻き込まれる(しったこっちゃないが)
Ⅳ:なにもしない
  →学費は掛からずに済む
  →授業で知的好奇心をくすぐられたい(研究は僕の精神を狂わせるだけ)

⇒明日はとりあえず、文系の授業にも院の授業にも出てみる。どうせ初回のガイダンスなので。研究室には声がかかれば行くけど、ね。相変わらずこんな状況だし、僕の方からは何も言うことが出来ないので。