「自由からの逃走」講読3

◆第三章 宗教改革時代の自由
 1 中世的背景とルネッサンス

  • 中世社会を特徴づけるもの
    • 個人的自由の欠如
      • 個人生活・経済生活・社会生活のすべてが規則と義務に縛られる
    • 近代的な自由はなかったが、孤立はしていなかった
      • 生まれながらにして社会的役割を与えられ、社会的秩序のなかで役割を果たせば安定感と帰属感が与えられた
    • 実際生活における具体的な個人主義の存在
    • 教会:罪の意識を助長するとともに神の絶対的な平等愛を保証した
  • 中世社会と「個人」
    • 構造的な社会は人間に安定感を与えている一方、個人を束縛していた
    • 中世社会においては個人からその自由を剥奪しなかった(⇔のちの権威主義
      • 「個人」という概念・自覚は未発達
    • 中世末期:社会機構と人間のパーソナリティが変化する
      • 社会の統一と中央集権の弱体化、経済的文化的な発展
  • イタリアにおけるルネッサンス
    • 哲学や芸術をはじめとしてあらゆる生活様式の変化はまずイタリアで生じた
    • 経済的政治的な原因
      • ヨーロッパの重要な貿易ルートであった地中海に接する地理的要因
      • 法皇と皇帝の争いによる多数の独立した政治的団体の発生
      • 東洋に近接していたことによる優れた工業技術の先駆的伝播
    • 12C以降封建的階層制度の崩壊→近代的な意味での個人の出現
    • ルネッサンス:富と力に満ちた貴族とブルジョアの文化→自由の感情と個性の自覚
      • その恩恵に預かれない大衆は安定感と帰属感を喪失
    • ルネッサンスは人間の尊厳と個性と力を増大させる一方、不安と絶望をも増大させた
  • 近代資本主義の根源
    • 経済的機構とその精神は中部・西武ヨーロッパの経済的社会的情況、ルターやカルヴァンの教義に見出される
    • ルネッサンス宗教改革の差異
      • ルネッサンス:富裕で強力な少数者が支配、こうした社会的基盤によって精神の表現者として哲学者や芸術家を生み出した
      • 宗教改革:都市の中産・下層階級と農民に信仰される宗教が発端となる
  • 16C初頭におけるヨーロッパの経済的社会的状態
    • 中世的社会:ギルドによる経済的組織の安定
      • 成員間の競争の禁止・協調の命令、職人の地位は安定的
    • 中世末期:ギルドの分化による資本主義の発達
      • 成員間で資本と地位の格差、経済的な独立と安定の喪失、職人の地位悪化
    • 資本主義の経済的発展は心理的雰囲気にも著しい変化を与えた
      • 近代的な時間観念の発達と生産性の重視
  • 近代資本主義の功罪
    • 中世的社会組織の崩壊→固定制と安静性の破壊
    • 経済的秩序における個人の地位の喪失と孤立
    • 中産階級・下層貴族・労働者・農民:搾取と破滅
      • 資本や市場の競争→人々に動揺や孤独、不安を根付かせた
    • 超人的な経済の力は人間の運命までも決定する
    • 資本主義は従来の共同的組織編制から個人を解放した
      • 人間は自己の運命の主人となり、危険も勝利もすべて自己のものとなった
    • 自由の多義性
      • 経済的政治的な束縛からの自由→積極的な自由を手に入れられる可能性
      • 閉ざされた世界で与えられていた安定感と帰属感の喪失→際限のない世界への恐怖と自分自身についての疑惑
      • 市場原理に基づく自由=孤独と孤立、無力感

◇高坂あかなのまとめ
封建的社会から資本主義社会への転換は個人に与えられる「自由の本質」の変化をもたらした。自由とは「拘束からの解放」と「自己決定による納得」を本質とする多義的なものである。
封建的社会においては「自己決定による納得」を禁ずることで、個人のアイデンティティは安定化される。一方、資本主義社会では旧来体制による「拘束からの解放」をもたらしたが、個人のアイデンティティは不安定化した。これらのことは、自己決定に基づく選択は常に納得できる結果を導くとは限らず、また選択にまつわる一切の責任を自らが負わなくてはならないことに起因する。
それゆえ、社会構造の変化が人間にとって好ましいものであったかどうかは一概に決めることはできない。しかし、自らの可能性に基づいて自らが行動を起こすことができるようになったという点は、実存的な生き方を実現するための第一歩であったのではないだろうか。