「おじいちゃんの里帰り」(2011独・トルコ)

トルコからドイツに移り住み、一生懸命働きながら一家を支えてきたフセインも今や70代。彼は一見平凡そうに映る大家族の中で孫たちに囲まれて平穏な日々を送っていたが、息子や孫たちはそれぞれ悩みを抱えていた。ある日、フセインは、今度の休暇には全員で故郷トルコに買った家を訪れようと提案するが……。

移民におけるアイデンティティは生まれ育った祖国、それとも移り住んだ生活の場である異国のどちらにあるのだろうか。日本人には馴染みのないテーマであるが、陸続きに国がひしめき、ヒト・モノ・カネの移動が活発なヨーロッパでは移民を巡って文化的対立や差別が問題となっている。映画のラストに示される「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」という一文がそれをまさに物語っている。血縁的ルーツを辿りトルコを目指す道程は、それぞれが抱える悩みとじっくり向き合う良い機会となって、家族としての絆は強まり、成長していく。

独断と偏見に基づく私的評価【★★★★:秀】