「自由からの逃走」講読6

◆第五章 逃避のメカニズム
 1 権威主義

  • マゾヒズムサディズム
    • 個人的自我の独立を捨て、自己と外部を融合させることでその個人に欠落しているような力を獲得しようとすることで逃避を図る
    • 服従と支配への努力
    • マゾヒズム的ないしはサディズム的な傾向
      • マゾヒズム的傾向:劣等感、無力感、個人の無意味さの感情→自己非難や自己否定
      • サディズム的傾向:、他者に対し力を振りかざし、支配・利用の道具として扱い、苦しむさまを見ようとする
    • サディズム的傾向はマゾヒズム的傾向よりも社会的に害悪かつ無意識的
    • マゾヒズムに基づく現象は、快楽と自己保持に向けられている人間の心理と矛盾するものではないか?
  • マゾヒズムサディズムの共通の根源
    • 耐え難い孤独感と無力感からの逃避
    • マゾヒズム的傾向の本質:個人的自己から逃れること、自分自身を失うこと→自由からの重荷から解放
    • サディズム的傾向の本質:他者の絶対的支配者となること→支配による快楽獲得
    • サディズムマゾヒズムの根底には共棲が見られる
      • 共棲:互いに自己自身の統一性を失い、互いに依存し合うことで自己と他者が一体化すること
      • 自己自身の孤独に抵抗できないことに起因する
      • サディズム:意識的な敵意、マゾヒズム:無意識的な敵意
  • 権力への追求
    • ホッブス以来:人間行動の根本的動機=力
    • ファシズムの時代:力を抑えようとする合法的かつ道徳的な要因に重点を置いた
    • 「力」という言葉の二様生
      • 何ものかに対する力の所有=他者を支配する能力
      • 何かをする力の所有=(潜在的)能力

力=支配か能力か

    • サド・マゾヒズム的人間は権威に対する態度に現れる
    • ファシズムの人間的基礎となるパーソナリティの構造もまた権威主義的性格に基づく
    • 権威=あるものが他のものと比較したうえで与えられる人間関係
    • プロテスタンティズム以降の近代哲学は、身分や制度といった外的権威を義務や良心のような内的権威に置き換えることで発展した
  • 権威主義的性格の抱える問題
    • すべての存在は力を持つものと、持たないものに二分される
      • 無力な人間や制度は自動的に権威主義者の軽蔑の対象となる
    • 権威主義的性格は「上から」のいかなる影響に反感を持つ傾向にある
    • 権威主義的性格は反逆的で、人間の自由を束縛するものを愛する
    • 個人の生活のみならず、人生そのものを決定すると考えられる力=宿命
      • 哲学的には「自然法」ないし「人間の運命」として、宗教的には「神の意志」として、倫理的には「義務」として合理化される
    • サド・マゾヒズム的追求や権威主義的性格は非常に極端な無力感によって崇拝・支配対象との共棲的関係を結ぶことによって無力感から逃れようとする
  • 魔術的な助け手
    • 自分の外側に人間を保護し、助け、発展させ、孤独から逃れさせないように作用している力を人格化して捉えていることがある
      • ex)神、原理、両親、家族、上司など
    • 人格化された魔術的助け手と関係を結ぼうとする人間は肉欲を求める
      • 恋愛関係においては同伴者に愛着を感じ、意識的・無意識的に全ての行動、思想、感情が意識的・無意識的に同伴者と結び付けられる
      • 共棲的衝動と等しい原理に起因し、魔術的な助け手に依存することで自己から逃れようとする
    • 魔術的助け手が人格化されている場合、時として失望が伴う
    • 自分の外側の対象に生涯を通じて依存しようとする現象をフロイトが指摘している
    • 人間の正常な成長とは、完全な自己放棄によって周囲に適応することで正常であると認められるようになることである
    • あらゆる神経症は基礎的な依存性と自由との探求の矛盾を解こうとする、本質的に成功しえない試みとして理解することが出来る

◇高坂あかなのまとめ
サド・マゾヒズムは権威に起因するものであり、志向性は異なるものの、他者に対する依存が根底にあるという指摘は興味深い。一方で、運命や神の意志、義務といった表現で捉えられる宿命に対しても権威主義は反発し、他者との共棲を通じて自己存在を保とうとする働きは、フロイトが指摘する自己放棄による周囲への適応と対極に位置する。常日頃思っていることなのだが、確固たる自己というものなど存在せず、他者との関係性によって自己が与えられるのではないかと考えているので、個人的には他者との関わり(その方法はともかくとして)を重視する権威主義には共感する部分がある。
フロイトの「精神分析入門」は買ったものの読めていないので、機会があったら読んでみたいところではあるが。