「her/世界でひとつの彼女」(2013米)

コンピュータがさらなる進化を遂げた近未来を舞台に、傷心の作家が女性の人格を有した人工知能(AI)型オペレーティング・システム(OS)と心を通わせ、本気で恋に落ちていく切なくも愛おしい姿を描く。そう遠くない未来のロサンゼルス。他人に代わってその相手への想いを手紙に綴る“代筆ライター”のセオドア。仕事は順調だったが、その一方で離婚調停中の妻キャサリンとの思い出を、別れて1年経った今も断ち切れないでいた。そんなある日、最新式のAI型OS“OS1”の広告を目にしたセオドアはさっそく自宅のPCに取り込むことに。すると起動した画面の奥から聞こえたのは、“サマンサ”と名乗る女性の声。それは無機質で事務的なAIとは思えないほどユーモラスかつセクシーで、バイタリティーに満ち溢れる人間のようだった。サマンサをすぐに気に入ったセオドアは携帯端末にも彼女をインストール。こうして常に一緒のふたりは新鮮で刺激的な日々を過ごし、いつしか恋に落ちていく。

コンピューターが高度に発達した世界観の描写に違和感がなく、未来予想図を観ているようで新鮮。その設定を上手く活かしながら、観念(心)と物質(体)という二項対立で揺らぐ人間の恋心を描いている。多数のプログラマーの人格を集積し、さらに会話を通じて進化してゆく人工知能と人間の差異はどこにあるのだろうか。
社会を取り巻く環境が変化する中で、アイデンティティとコミュニケーションの在り方を考えさせられる作品だった。

独断と偏見に基づく私的評価【★★★★:秀】