高坂あかなは千載一遇の好機を逃してしまった

 つくづく惜しいことをしたと悔やんでも悔やみきれない。

 ちょっとした買い物をしに出かけ、今しがた帰ってきたところなのだが、車に轢かれかけた。車へんに旧字体の楽で、轢く。轢くことが楽しいわけではなく、轢いたときの音に由来する漢字らしい。

 歩行者用の信号は青。歩いているところに、向こう側から結構な速さで車が右折してきた。咄嗟の事に、思わず駆け出すボク。その時はドライバーに対する憤りを感じていたが、家に着く頃にとんでもない好機ではなかったのではないかと感じるとともに、本能的に車を避けてしまった自分が恨めしい。

 車の勢いから察するに、跳ねられればそれなりの衝撃を加えられ少なくとも何らかの怪我を出来ただろうし、上手く行けば死ねたはずだ。確かあそこの交差点は右折禁止で、ボクが進行無視をしたわけでもない。過失を問われるならば、0:10も夢じゃない。麻雀には明るくないのだが、相当な役が付いたのではないだろうか?
 ボクが夢にまで描いた死を自分が攻められることなく、またドライバーを地獄のどん底に突き落とすことも出来て、両親には老後の蓄えも与えることができる。世の中から危険なドライバーを減らせるなら、ボクの死は決して無駄なことじゃない。

 逃した魚は大きいと思いつつ、買ってきたケンタッキーのフライドフィッシュを頬張るのであった。