「自由からの逃走」講読8

◆第五章 逃避のメカニズム
 3 機械的画一性

  • 機械的同一性
    • 現代社会において、大部分の正常な人々が採っている解決方法
      • 個人が自分自身であることを辞める
      • 文化的鋳型に基づいて与えられる自己のパーソナリティ
    • 一般的な人間観
      • 個人=自分の思うままに自由に考え、感じ、行為する
    • 「自己」という幻想
      • 感情や思想はどのようにして主観的に経験されるのか
  • 自己と思考
    • ex)催眠術、術後暗示の実験
      • 暗示によって与えられた思想や感情、願望、官能的感覚でさえ自分自身のものと主観的に感じられる
    • 人間は己の精神的行為(意志、思考、感情衝動)の自発性を確信しているが、実際には特殊な情況下において、他人の影響に由来している
    • 多くの場合、主題に対して発せられる意見は「自分自身」の意見ではない
      • ex)政治的問題=マスメディアの情報に基づいた思い込み
      • ex)美的判断=それが一般的に「美しいもの」と認識されていることに基づく

自身の主張を「説明」するための「合理化」

    • 偽りの思考における問題点は、それが自ら考えた結果であるか否かであって、内容の正誤ではない
    • 「なに」が考えられているかではなく、「どのように」それが考えられているのかが肝要
      • 能動的な思考から生み出される思想は、常に新しく独創的である
      • 独創的=思考主体において新しい発見をするための手段として思考を用いること
    • 合理化は現実を洞察する手段ではなく、自分自身の願望を存在する現実と調和させようとする事務的な試み
  • 自己と意志
    • 多くの場合、外的な力によって強制されない限り、人は自らの決断に基づき行動していると思い込んでいる
    • しかし、実際の決断の大部分は外部から示唆されるものである
      • 孤独の恐ろしさ、私たちの生命、自由、安楽に対する直接的な脅威に駆り立てられ、他人の期待に歩調を合わせているに過ぎない
  • 本来の自己と偽りの自己
    • 本来の自己:精神的な諸活動の創造者
    • 偽りの自己:他人から期待されている役割を演じ、自己の名のもとにそれを行う代理人
      • 夢や幻、酩酊状態において本来の自己が現れ、抑圧された感情や思想が現れることがある
    • 自己の喪失と偽りの自己の代置は個人を著しい不安状態に投げ込む
      • 他人の期待の反映と自己同一性の喪失→激しい懐疑
      • 他者による承認を通じて自己同一性を求めようとする
    • 近代社会は個人を自動機械とした
      • 人々は無力と不安を増大させ、安定を与え疑いから救うような新たな権威に従属しようとした→ドイツにおけるナチズム

◇高坂あかなのまとめ
「確固たる自己など存在せず、他者との関係性を通じてぼんやりとした自己が形成される」という持論を第五章1権威主義のまとめで述べたが、その他者との関係性の一例が最近はやりの「承認要求」というものなのではないだろうか。現代においては、現実世界と同等の広がりを持ったネット世界が存在している。フロムが指摘しているように、他者の期待に応えようとして本来の自己ではない偽りの自己を演じることを強要される場面が現実世界では多々ある。それと比較すると、ネット世界ではある程度の匿名性が確保されており、他人からの期待も少ないように思われる。もっとも、ネットの使い方を誤まると現実世界まで飛び火することになるのだが。
しかしながら、鏡という道具がなければ自らの姿が見ることが出来ないように、自己というものも世界への自己投影と他者からの反射によって初めて捉えることが出来る。それゆえに、自己の可能性を意識し、目の前に現れている世界に投企することが自己存在を確立させるための唯一の方法なのではないか。