「アクト・オブ・キリング」(2012デンマーク・ノルウェー・英)

1960年代のインドネシアで行われていた大量虐殺。その実行者たちは100万近くもの人々を殺した身でありながら、現在に至るまで国民的英雄としてたたえられていた。そんな彼らに、どのように虐殺を行っていたのかを再演してもらうことに。まるで映画スターにでもなったかのように、カメラの前で殺人の様子を意気揚々と身振り手振りで説明し、再演していく男たち。だが、そうした異様な再演劇が彼らに思いがけない変化をもたらしていく。

「いかにして(虐殺という)悪は成し遂げられるか?」というテーマは数日前に観た「ハンナ・アーレント」と類似している。ユダヤ人のハンナ・アーレントアイヒマン裁判の傍聴を通じて「悪の凡庸さ」を主張したが、この映画の主人公アンワルも自らの憧れである映画スターに成りきることで虐殺という悪から距離を置き、躊躇うことなくそのような行為に加担していく。加害者である自らが再現を通じて疑似的にとはいえ被害者の立場に置かれ、アンワルは絶対的な正義だと信じ込んでいた自らの過去の行いに対して疑いを抱くようになる。自身の行為に対する評価が揺らぎ自問自答している彼の姿こそ、信念なき平凡な人間こそ巨大な悪の根源であることの証明ではないだろうか?
これを参考にしました。

独断と偏見に基づく私的評価【★★★☆:優】